第105回全国高校野球選手権は、いよいよ準々決勝、ベスト8進出した8校が出揃いました。
この大会では、代表校49校のうち7校が、部の規則で髪型を丸刈りと定めない「脱丸刈り」のチームです。
このうち慶應、土浦日大、そして花巻東がベスト8進出を決めました。
8月19日の準々決勝では、慶應は第一試合に沖縄尚学と対戦します。土浦日大は、第二試合で八戸学院光星と、そして花巻東は、第四試合で仙台育英と「東北対決」で激突します。
脱丸刈り、髪型が自由な7チームはどこ
髪型を丸刈りと規定せず、2023年の夏の甲子園へ出場を果たしたのはこちらの7校です。
クラーク記念国際(北北海道)
クラーク記念国際は通信制高校として、史上初の甲子園勝利をおさめ、新しい歴史を作りました。また北北海道代表としても12年ぶりの初戦突破しました。
校歌の歌詞も、従来の校歌のイメージと一線を画していると話題になりました。
クラーク記念国際
㊗️甲子園初勝利!#夏の甲子園 #クラーク国際 pic.twitter.com/WyIllgZvLJ— Akira (@a_kr1205) August 8, 2023
花巻東(岩手県)
大谷翔平選手、菊池雄星選手の出身校であることは、高校野球ファンであるならば誰もが知っています。甲子園では2015年以来となる夏の大会で勝利を収めました。
土浦日大(茨城県)
今大会の開会式後すぐの第1試合に登場し、今大会初のホームランを記録しました。また、今大会初のタイブレークとなったゲームを制しました。
第105回全国高等学校野球選手権記念大会
第1試合 土浦日大1-0上田西
2回表 土浦日大松田選手大会第1号バックスクリーンに突き刺さる先制本塁打炸裂 pic.twitter.com/GVWISBvQbz— Matsu⚾️ (@tokyo1118Matsu) August 6, 2023
慶應高校(神奈川県)
「エンジョイ・ベースボール」を掲げる慶應高校は、歴史ある伝統校の一つです。これまでに春の大会へ9回、夏の大会には18回、甲子園に出場しています。
浜松開誠館(静岡県)
浜松開誠館は、今大会で、甲子園初出場・初勝利を挙げました。プレーもさることながら、髪型自由・ユニフォームの色づかいと、何かと自由な雰囲気が話題となりました。
また校歌も、シンガーソングライターの小椋佳氏が手がけたことで、注目が集まりました。
立命館宇治(京都府)
今大会では、4年ぶりの夏の甲子園出場となりました。応援で使われる「DREAM SOLISTER」がファンの間で人気で、今大会でも6回の応援で流れるとネットでも反応がありました。
TRUE/ DREAM SOLISTER
立命館宇治高校吹奏楽部 in 阪神甲子園球場 pic.twitter.com/RNrnX6n701
— Y's@BAR Kaguya (@zkncl_787) August 9, 2023
英明(香川県)
英明は12年ぶりに夏の大会へ出場しました。2023年の春の選抜に続き、連続出場となりました。英明野球部の部員数は42人です。今大会の出場校の中で最も少なく、少数精鋭のチームです。
智辯学園との1回戦で、サヨナラ負けを喫しました。
誇りです。自慢です。
秋の神宮に春夏の甲子園、
こんなに幸せな2年半は無かったです。
次のステージもしっかり応援しまっせ!
ありがとう英明!ありがとう寿賀弘都!
ひとまずお疲れ様。 pic.twitter.com/HyMcj9lfcc— 寿賀蒼音 (@s_udon_a) August 8, 2023
ベスト8に進んだチームは慶應と土浦日大、そして花巻東の3校に
8月16日の第2試合で、まず慶應高校が準々決勝、ベスト8進出を決めました。続いて、土浦日大がベスト8進出を決めています。
また翌日の8月17日の第2試合で、花巻東もベスト8進出も決めています。
ここでは準々決勝に勝ち進んだ各チームの試合と、「脱丸刈」の背景をみてみたいと思います。
慶應高校のベスト8を決めた試合
8月16日、広島県代表・広陵高校との3回戦は延長タイブレークで、6−3で慶應が粘り勝ちしました。途中追いつかれてしまい、タイブレークへもつれ込みましたが、慶應が勝負強さを10回に発揮して勝利しました。
慶應のベスト8進出は、15年ぶりとなりました。また神奈川県代表として8年ぶりの快挙です。
夏の甲子園【3回戦】
慶応(神奈川)6-3広陵(広島) 延長10回
慶應 201┃000┃000┃3┃6
広陵 001┃001┃100┃0┃3慶応がセンバツ出場校対決を制し15年ぶりのベスト8進出。神奈川県勢のベスト8進出は2015年の東海大相模以来、8年ぶり。
選抜ベスト4・広陵は6年ぶりのベスト8進出ならず— 高校野球データ (@koshien_1017) August 16, 2023
自称「陰キャラ」の慶応5番打者、5打点の大暴れ! 夏の甲子園 https://t.co/jVlostBRPA#慶應 #慶應義塾 #keio
何事にも研究熱心な性格で、森林監督のアドバイスに対しても「違うんじゃないですか」などと議論を仕掛けるほど
延長十回も「うっとうしがられるので、声はかけなかった」と森林監督
— 慶應野球速報 (@keio_baseball) August 16, 2023
好投の松井は「センバツの悪夢を振り払った」 慶応監督 夏の甲子園 | 毎日新聞 https://t.co/hXS6iScawK#慶應 #慶應義塾 #keio
— 慶應野球速報 (@keio_baseball) August 16, 2023
前身となる慶應義塾普通部は、1916年(大正5)年、第2回全国中等学校野球大会(現在の夏の甲子園大会)で優勝しています。また1920年(大正9)年の第6回大会では準優勝を遂げていますが、近年優勝に絡む試合からは遠ざかっています。
この慶応と広陵の試合は、甲子園の歴史的にも意義があるものでした。前回、両校が対戦したのは、1929年でした。それ以来94年ぶり史上最長のブランクを経た再戦となりました。
慶應は、元祖「脱丸刈り」
慶應は、チームモットーが「エンジョイ・ベースボール」となっているように、これまでにも、丸刈りをチームに強要したことはなく、2008年に甲子園に出場した時も、自由な髪型で選手達が出場しました。
こちらは、神奈川県大会の決勝での一コマです。右側「KEIO」のユニフォームの選手達は、思い思いの髪型をしています。
2008年の夏の大会で、慶應をベスト8に導いたエースの田村圭さんです。田村さんは帽子をかぶっていますが、坊主でないことは一目瞭然です。
現在、チームを率いているのは森林貴彦監督です。本業は、慶應幼稚舎(小学校)の教諭です。従来の高校野球の常識にとらわれない独自の方針で、「高校野球の当たり前」を当たり前にせず、選手達にのびのびと野球をやらせるのが良いという信条です。
また森林監督は、選手たちに、監督を「さん付け」にして呼ばせています。選手と監督が、対等な立場であることを意識するためです。選手は監督に管理されるのではなく、自主的に試合中の作戦や練習内容を考えます。
森林監督は、こうした方針は高校野球を通じて、社会で通用するために、自分で考える力を育てるためだと自身の著書に記しています。
今大会で慶應が準々決勝に進出したことで、森林監督の方針が、今後の高校野球界に大きな影響を与えるかもしれません。
土浦日大のベスト8を決めた試合
土浦日大は、千葉県代表の専大松戸と対戦しました。土浦日大は、序盤に先制されリードを広げられました。しかし、3回の攻撃で、好走塁で1点差に詰め寄り、試合の流れをつかみました。
6点差あったところを逆転し、最終的には10-6で勝利、ベスト8進出を決めました。
キャプテンの塚原歩生真(ふうま)選手は、「ノーヒットで1点を取るような、日本一の走塁をめざしている」と試合後に語りました。土浦日大は、冬場のオフシーズンは、走り込みのみならず、試合形式の走塁に力を入れて練習してきました。
土浦日大は春夏を通じて初めてのベスト8進出です。また茨城県勢として、ベスト8入りしたのは、2016年常総学院以来で、7年ぶり9度目となります。
#地元のニュース 夏の甲子園 土浦日大8強
第105回全国高校野球選手権大会第10日の16日、茨城代表の土浦日大は第4試合(3回戦)で専大松戸(千葉)と対戦、10―6で勝利しました。(8月17日茨城版)#甲子園https://t.co/3QXb1mivYq pic.twitter.com/JncQWJVPUt— 産経編集センター 公式 (@SANKEI_HC) August 17, 2023
この試合では、相手チームの応援団が台風の影響で甲子園まで来られず、試合内容とは別の意味でも注目を集めました。
専大松戸の応援団、新幹線の遅れで大半が間に合わず 夏の甲子園 – 毎日新聞https://t.co/IyhV0Q6W3b
— 山口一朗YAMAGUCHI,Ichiro (@yamaguchi_1ro) August 16, 2023
土浦日大は2016年からハイブリッド
土浦日大は、校則に準じた髪型であればOKとしています。この方針は、2016年に監督に就任した小菅勲監督が取り入れました。
小菅監督自身、高校時代は、1984年の夏の大会に取手二高の三塁手として出場しています。またその大会では全国制覇を経験しました。
当時の取手二高の監督は、甲子園で名将と名高い木内幸男氏でした。木内監督は、いわゆる「のびのび野球」の元祖として、常総学院を「常勝」チームとして長年導きました。
その薫陶を受けている小菅監督は、土浦日大での導入について次のように語っています。
「僕らは(甲子園で)結果を出せましたが、管理されていたわけではない。監督が枠をつくったら、その枠の中の野球しかできなくなってしまう。」
「打撃でもフルスイングしたいやつもいれば、センター返しに徹するやつもいる。自分のやりたい野球の表現というのがあると思う。」
土浦日大は、髪型について方針転換した翌年の2017年の夏の大会に出場しました。その時の選手の様子です。短髪にしている選手が多いですが、丸刈りではないことがわかります。
しかし松商学園に敗れて、1回戦で敗退したことを機に「甲子園で勝つチーム」作りをしてきました。
小菅監督は、昔は高校野球はこうあるべきだと型に当てはめて考えがちだったところを、自身が親になって一人一人に合った指導を考えるようになったと語っています。
小菅監督のもと、土浦日大では、毎年12月のオフシーズンに、選手と親、そして小菅監督で三者面談を行い、選手が高校野球にどのように関わっていくか、意見交換しています。
花巻東のベスト8を決めた試合
8月17日、花巻東は奈良県の智辯学園と対戦し、5-2で勝利し10年ぶりのベスト8進出を決めました。
花巻東は、1回から先制し試合の流れをつかみます。6回の攻撃では主砲の佐々木麟太郎選手が、タイムリーヒットを打ち、突き放しました。
しかし9回裏の智辯学園はツーアウトから粘りましたが、最後は継投した花巻東がファーストゴロに抑え、試合終了となりました。
花巻東は、全国制覇をするために
花巻東は、2018年の夏の大会に出場しました。甲子園で敗れて岩手に戻った翌日、佐々木洋監督から「丸刈りの強制をやめる」と宣言がありました。
佐々木監督は、2018年に夏の高校野球大会が100回となったことも受けて、全国制覇に向けて、変えるべきところは変える必要性を感じていました。
当時のキャプテンは「自分たちで決めたことなので、自律するようになった」と語っています。
翌年2019年も夏の甲子園出場を果たしますが、1回戦で敗退しました。2023年は4年ぶりの夏の大会に出場していますが、今年は準々決勝進出を決めました。
あの菊池雄星選手も、大谷翔平選手も、花巻東時代には、全国制覇を成し遂げられませんでした。「脱丸刈り」がもたらした変化が、チームを強くしてきたのかもしれません。
準々決勝が待ち遠しい
現在高校野球界では、「脱丸刈り」、練習時間の短縮など、高校野球人口の減少を食い止める策を講じているチームが多くなりました。
しかしながら、広陵高校のように選手達が自主的に「丸刈り」を選択するチームもあるようです。
高校野球も画一的な施策ではなく、多様性や自主性が求められる時代の転換点にあるようです。
ベスト8に進出したチームが、この先どこまで勝ち進んでいくか楽しみですね。
*アイキャッチ画像は、ベスト8進出を決めて校歌を聴く花巻東のメンバー
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