甲子園

初出場唯一の公立校・佐賀県代表の鳥栖工は、甲子園請負人の大坪監督がスカウトした3年生が躍動、初戦突破の勢いで2回戦へ臨むもベスト16ならず

甲子園

第105回大会へ初出場した6校のうち、唯一の公立校は佐賀県代表の鳥栖工業高校です。佐賀県勢に10年ぶりに甲子園での勝利をもたらしました。大会の中でも、注目を集めるチームの一つです。

キャプテン高陽章選手(3年)を先頭に入場

1946年(昭和21年)の創部77年で、春夏通じて、初めて甲子園出場を決めました。これまでは69年前の佐賀県大会準優勝が最高成績でした。

鳥栖工が甲子園出場を果たすまで、決して順風満帆ではありませんでした。2022年の秋季大会、2023年の春季大会の公式戦では、それぞれ初戦敗退しました。

しかし、夏の佐賀大会で選手たちは飛躍し、ノーシードから甲子園初出場を果たしました。甲子園でも1回戦で、甲子園出場回数17回を誇る富山県代表・富山商を延長タイブレークを制して、2回戦へ進出しました。

そんな鳥栖工は、どのようなチームなのでしょうか?

校門前には、甲子園初戦突破と2回戦に関する看板が立てかけられました。

佐賀県立鳥栖工業高校の特色

鳥栖工業高校は、1939年に開校し、創立84年を迎えます。全日制・定時制とあり、少数精鋭で「ものづくり」を学んでいます。

毎年創立記念日である4月19日には、佐賀県鳥栖市と福岡県那珂川市をまたがる九千部山(くせんぶやま)を登山しています。学校のホームページでは登山の様子が紹介されています。

また部活動が盛んで、特に駅伝部は全国駅伝大会の常連チームです。佐賀県内にあるラグビー部は2校しかなく、そのうちの1校となっています。

学校のスローガンは「夢実現!」です。高校生活3年間を通して、自分の道を歩む基礎を作っていくことを目標としています。

鳥栖工・野球部を引っ張る大坪慎一監督の人柄

大坪慎一監督は、鳥栖工業高校には、4年前の2019年に異動してきました。これまで2009年の夏の大会で、佐賀県立伊万里農林高校の野球部を甲子園初出場へ導きました。着実にチームを強くし、公立校の甲子園請負人のようです。

監督に就任した時のチームの状況は最悪でした。その年の冬には、一気に10人が退部する事態と陥っていました。そこで監督は、現在の3年生の代を、自ら中学校を回ってスカウトしてきました。

その指導方針は、「人間性を重視すること」です。部室には、野球界問わず、著名人の人生訓を集めて掲示し、いつでも選手たちの目に留まるようにしています。

また野球を通じて、どんどん失敗してほしいと語っています。

「ほとんどが高校卒業と同時に社会に出て行くので、社会に通用するような人間に成長してほしい」

「たくさん失敗し、それを乗り越えて成長してほしい。失敗を力に変えれるような子になってほしい」

大坪監督は、高校野球の先にある人生にも目を向けて、日々選手たちの練習を見守っています。

どんな練習をしているのか? 目標は「本気で甲子園」

現在、鳥栖工野球部の部員59名です。鳥栖工業高校グラウンドで、平日は16001930に活動し、昼休みも練習しています。

土日は練習試合や公式戦にあてています。原則、毎週月曜日を休養日としています。

「本気で甲子園」を目標に、身体能力や野球の技術だけではなく、監督と選手は交換日記をするなど、精神面でも信頼関係を培ってきました。

日誌は野球のことばかりではなく、「チャイム前に席に座る」「椅子を入れる」「掃除をもくもくとする」といった日常生活の姿勢を自ら振り返る項目が半分を占めます。

野球部の部員が、各学年の成績上位者に名を連ねています。

NHK

鳥栖工は、目標に掲げた甲子園に向けて、バントの練習を欠かさず取り入れてきました。私立の強豪校のように強打がないのであれば、そこから自分たちのチームでできることを考えたのです。

練習では、アウトカウントや走者の状況を細かに設定した試合形式を多く取り入れました。そして、少ないチャンスを確実なものとするバントの技術を磨きました。それが夏の大会で結実します。

佐賀県大会では、バントで第1シードを撃破

佐賀県大会では、2回戦で第1シードの佐賀北高校と当たりました。佐賀北は、2007年に甲子園で「がばい旋風」を巻き起こした強豪校です。

鳥栖工は2回、藤田陽斗(はると、3年)選手のタイムリーで1点を先制しました。直後の三回に佐賀北に追いつかれますが、鳥栖工は6回にスクイズで1点を挙げ、これが決勝点となりました。

佐賀北の粘りもありましたが、鳥栖工業の鉄壁な守りで、2-1と接戦に勝利し、そこから一気に勢いに乗りました。

2023年の佐賀県大会で優勝し、甲子園出場を決めた時、大坪監督は「ずっと浮き上がれずにいた機体がようやく離陸してくれた」とコメントを残しています。選手たちを信じて、ずっと待っていた気持ちが伝わってきます。

また別のインタビューでも「選手たちに対しては、『成長してくれてありがとう』という気持ちと、誇りに思っています。甲子園では思い切ってやって欲しい。失敗してもしなくても、躍動してほしいという気持ちでいます。」と、選手たちを讃えています。

甲子園初戦でもバントでサヨナラ勝利

甲子園での初戦の相手は富山県代表・富山商でした。同じく公立校ですが、相手は甲子園の常連校です。

鳥栖工業は富山商を相手に互角に戦いました。そしてタイブレークの延長12回で、3-2でサヨナラ勝ちしました。

タイブレークとなった延長10回、鳥栖工業はバントに失敗し得点となりませんでした。

しかしタイブレークの延長12回、2年生の林選手は、3塁手前にうまくボールを落としました。富山商が処理をしている間に、ホームインし、ようやく長い接戦を制しました。

https://twitter.com/89love_big6tm/status/1689092452387622912?s=20

鳥栖工は、少ないチャンスを確実にモノにする、堅実なプレーが光りました。勝利の瞬間、アルプススタンドは大盛り上がりでした。

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地元でも、初勝利を祝うメッセージが駅の電光掲示板に流されるなど大盛り上がりでした。

いざ2回戦、注目選手は

2回戦でも、「仮面ライダー兄弟」として知られている、松延晶音(あぎと、3年)選手と弟の響(ひびき、1年)選手のバッテリーに注目が集まりそうです。

1回戦の富山商戦でも、相手に流れを持っていかれそうなところを、松延兄弟のいいプレーが見られました。

響選手は、福岡や大分の強豪校からも声がかかっていましたが、大坪監督が「兄と甲子園でバッテリーを組める人はそうそういない。将来、甲子園での話を兄弟で語り合うなんていいじゃないか?」とスカウトしたという話が残っています。

2回戦の試合中継では、松延兄弟のおじも、兄弟で甲子園に出場したと紹介がありました。

https://twitter.com/step1122family/status/1690738304965361664?s=20

他には、打撃不振から4番から7番に降格し、挫折から這い上がってきたという藤田陽斗選手です。甲子園では、チーム初のヒットを記録し、チームを勢いづけました。

藤田選手の地元では、街をあげて応援している様子がネットで紹介されていました。

2回戦は日大三高を相手に、引き締まった試合をするも1-3で惜敗

2回戦の相手は、西東京代表の日大三高でした。こちらも甲子園常連校で、エースの安田投手が1回戦で今大会初めての完封試合を成し遂げています。

鳥栖工は初回に得点を挙げました。

しかしながら、その後なかなか安田投手を打ち崩すことはできませんでした。チームのモットー「我信勝担」の通り、鳥栖工業は持ち味の堅実で粘り強いプレーを見せます。

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鳥栖工業の守りを前に、日大三高の強力打線が炸裂することはありませんでした。松延兄弟のバッテリーがノーアウト2、3塁というピンチを凌ぐなど、最後の最後まで目が離せない試合展開でした。

響投手は、この試合で144キロをマークし、自身の記録を更新しました。

管理人が注目していた藤田選手は、今日は4打席回ってきました。大会前に、大坪監督が「一番努力をした」と評価していました。

藤田選手は、ランナーを出た時も打席に立ちましたが、快音を響かせることはできませんでした。最後の打席では、空振り三振に倒れました。

鳥栖工業は、2回戦は1-3で日大三高に敗れ、ベスト16進出となりませんでした。

試合を終えて

大坪監督は、試合後のインタビューで「うちの野球はできた。勝つならこういう展開しかないと思い、できれば勝ち越したかった。また出直しです」と、次に向けて前向きなコメントを残しました。

また、先発の古澤投手がいい流れを作ってくれ、古澤投手がこの試合を作ったと絶賛しました。

ベンチを引き上げる大坪監督、選手たちの顔は晴れ晴れしているように見受けられました。

そして、監督・選手達だけではなく、マネージャーの緒方光月さんが砂を集める様子も注目を集めました。

甲子園にかかる費用をクラウドファンディングで募る

現在、鳥栖工は、甲子園出場実行委員会が主体となって、甲子園出場にかかる費用をクラウドファンディングで募っています。2回戦出場決まった8月9日から9月15日までの募集です。

ファンドの使用目的は、こちらの2つです。

①選手たちの出場経費として

大会期間中の宿泊費および練習に係る経費や熱中症対策に係る経費

②応援する生徒たちの移動経費として

甲子園までの応援に係る旅費および諸経費、甲子園入場チケット代、応援グッズ、熱中症対策に係る経費等

甲子園に出場するだけで、最低1500万円は必要と言われています。

8月14日の2回戦の試合前は、支援者は1300人を超え、目標金額1500万円に対し、その半分となる約750万円が集まっています。

試合終了後には、支援者は1500人を超える勢いで、支援金額は823万円を突破しました。鳥栖工業メンバーは多くの人の心を動かしています。

8月20日には、ついに支援金額は1000万円を超えました。また支援者は1800人に上りました。

出場49校のうち、クラウドファンディングをしているのは15校です。その15校の中で、鳥栖工業が最多支援金額を誇っています。

甲子園での戦いが終わってもなお、鳥栖工業へ関心が寄せられています。

2回戦は、鳥栖市のみんなが応援していた!仮面ライダー兄弟ゆかりのあの俳優も

市役所のパブリックビューイングには、初戦に続き2回戦も多くの市民が集まり、大きな声援を送りました。

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鳥栖工業野球部の関係者に、粋なプレゼントをするお店もありました。

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今大会での松延兄弟の活躍に、「仮面ライダーアギト」を演じた俳優の賀集利樹さんが2回戦に向けてインスタグラムでエールを送っていました。

鳥栖工業高校の、甲子園初出場、初勝利は、佐賀県勢に10年ぶりの白星をもたらす素晴らしい結果を残しました。

3年生は引退となりますが、どん底から這い上がった経験、そして甲子園での何にも代え難い経験を生かして、これからの人生を描いていってほしいなと思います。

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